不妊治療を続けていると、仕事との両立が本当に難しく感じる瞬間があります。通院の予定が急に入ったり、体調が優れない日が続いたりすると、「このまま仕事を続けていていいのかな」という不安が頭をよぎるものです。
実際、不妊治療を理由に退職を選ぶ人は少なくありません。ただ、退職という選択には思った以上にリスクもあって、後から「あのとき辞めなければよかった」と感じる人もいるのです。この記事では、退職を考える前に知っておきたい現実的な情報をまとめました。
不妊治療で仕事を辞める人はどのくらいいるの?
不妊治療と仕事の両立に悩んで退職する人は、実は想像以上に多いです。厚生労働省の調査では、不妊治療を経験した人の約16%が仕事と両立できずに離職していることが分かっています。つまり、およそ6人に1人が退職を選んでいるということです。
この数字を見ると、自分だけが悩んでいるわけではないと少し気持ちが軽くなるかもしれません。治療と仕事の板挟みになって苦しんでいる人は、決して珍しくないのです。
1. 治療期間が長引くと退職者が増える理由
不妊治療を始めてから1年未満で退職する人が最も多く、2年目までに離職した人が全体の約79%を占めています。治療が長期化するにつれて、身体的にも精神的にも疲れが溜まっていくのが大きな要因です。
治療期間が2年以上になると、離職のリスクが2年未満の人に比べて約1.82倍も高くなるというデータもあります。通院の回数が増えたり、体外受精などのステップに進んだりすると、仕事との調整がますます難しくなっていくのです。
最初は「何とかなるかも」と思っていても、治療が思うように進まず時間だけが過ぎていくと、次第に気持ちが追い詰められていきます。そんなときに「もう限界」と感じて退職を選ぶ人が多いのです。
2. 両立できなかった人が感じた3つの負担
不妊治療と仕事の両立ができなかった人が感じた負担として、まず「いつまで治療が続くか分からないプレッシャー」が挙げられます。先が見えない不安は想像以上に心を削っていくものです。
次に「休みのときに同僚に気を使う」という精神的な負担があります。急な休みが続くと、周りに申し訳ないという気持ちが強くなって、職場にいること自体がつらくなっていきます。
そして「通院回数の多さ」も大きな負担です。採卵や胚移植のタイミングは自分では選べないため、仕事の予定との調整が本当に難しくなります。これらの負担が重なることで、退職を選ばざるを得なくなる人が多いのです。
3. 実際に退職を選んだ人の声
退職を選んだ人の中には「職場に理解がなかった」という声が多く聞かれます。上司に相談しても「そんなに休まれると困る」と言われたり、同僚から冷たい目で見られたりすることもあったようです。
また、非正規雇用の人は正社員に比べて退職のリスクが2.65倍も高いというデータもあります。契約更新のタイミングで「治療で休みが多いなら更新は難しい」と言われるケースもあるのです。
ただ、退職後に「今のところ後悔はない」という人もいます。治療に専念できたことで精神的に楽になったという声もあれば、数年経ってから「やっぱり仕事を続けていればよかった」と感じる人もいます。判断は本当に難しいものです。
仕事を辞めるメリットとは?
退職することで得られるメリットもあります。特に、時間の自由度が大きく広がることは見逃せないポイントです。
1. 通院の調整がしやすくなる
仕事を辞めると、通院のスケジュールを自由に組めるようになります。不妊治療では急に「明日来てください」と言われることもあるため、この自由さは大きな安心感につながります。
採卵や胚移植などの重要な処置も、仕事を気にせず受けられるようになります。「会社に迷惑をかけている」という罪悪感から解放されるだけでも、気持ちがずいぶん楽になるものです。
特に体外受精にステップアップすると通院回数が一気に増えるため、退職して時間を確保することで治療に集中できる環境が整います。仕事のストレスがなくなることで、体調管理もしやすくなるでしょう。
2. 精神的なストレスが減る
仕事と治療の両立で感じていたプレッシャーから解放されることは、大きなメリットです。「また休みを申請しなきゃ」「同僚にどう思われているだろう」という不安が消えるだけで、心が軽くなります。
職場での人間関係のストレスも減ります。治療のことを隠している場合は特に、嘘の理由を考えたり気を使ったりすることが精神的な負担になっていたはずです。
ストレスが減ることで睡眠の質が上がったり、食欲が戻ったりする人もいます。心と体はつながっているので、精神的に安定することが治療にもプラスに働くかもしれません。
3. 治療に専念できる時間が持てる
退職すると、治療以外の時間も自分のために使えるようになります。鍼灸に通ったり、食事に気を配ったり、体を休めたりする時間が取れるのです。
- 治療後にゆっくり休める
- 体調管理に時間をかけられる
- 鍼灸やヨガなど補助的なケアができる
- ストレスの少ない生活を送れる
これらの時間を確保できることで、治療の成功率が上がる可能性もあります。仕事で疲れ切った状態で治療を受けるより、心身ともに整った状態で臨める方が良い結果につながりやすいのです。
仕事を辞めるデメリットとは?
一方で、退職にはリスクも伴います。特にお金の面での不安は、想像以上に大きなものになります。
1. 収入が減って治療費の負担が重くなる
退職すると当然ながら収入がゼロになります。不妊治療は保険適用になったとはいえ、それでも1回あたり数万円から数十万円の費用がかかることも珍しくありません。
夫の収入だけで生活費と治療費を賄うのは、思った以上に大変です。貯金を切り崩しながら治療を続けることになると、「いつまで治療を続けられるのか」という新たな不安が生まれてしまいます。
治療が長期化すればするほど経済的な負担は増えていくため、退職前にしっかりとした資金計画を立てておくことが必要です。「とりあえず辞めてから考えよう」では、後で困ることになるかもしれません。
2. 産休手当がもらえなくなる
退職してしまうと、もし妊娠できたとしても産休・育休の手当が受け取れなくなります。これは意外と見落としがちなポイントです。
出産手当金や育児休業給付金は、在職中でないと支給されません。これらの手当は合計で数百万円になることもあるため、退職によって失う金額は決して小さくないのです。
「妊娠できたら仕事のことは後で考えればいい」と思うかもしれませんが、産後の生活費や育児費用を考えると、これらの手当があるかないかで大きな違いが出てきます。
3. 将来のお金の備えが難しくなる
退職すると、厚生年金から国民年金に切り替わるため、将来もらえる年金額が減ってしまいます。これは老後の生活に直接影響する問題です。
また、キャリアの空白期間ができることで、再就職が難しくなる可能性もあります。特に30代後半から40代にかけて退職すると、同じような条件で仕事を見つけるのは簡単ではありません。
- 厚生年金がなくなる
- キャリアの空白ができる
- 再就職が難しくなる
- 収入の回復に時間がかかる
治療が終わった後の人生を考えると、退職による経済的なダメージは長く尾を引く可能性があります。目の前の治療だけでなく、将来のことも含めて考える必要があるのです。
退職せずに仕事と治療を両立する方法はあるの?
実は、退職以外にも選択肢があります。会社の制度を上手く活用したり、働き方を工夫したりすることで、両立できる可能性もあるのです。
1. 会社の休暇制度を確認してみる
最近では、不妊治療のための休暇制度を導入している企業が増えています。年次有給休暇とは別に、治療のための特別休暇を設けている会社もあるのです。
国家公務員では年10日の不妊治療休暇が新設されましたし、大手企業でも同様の制度を整えているところが増えています。自分の会社にどんな制度があるのか、一度人事部に確認してみる価値はあります。
制度がない場合でも、時間単位の有給休暇や半日休暇が使えないか相談してみるといいでしょう。通院のたびに丸一日休むより、数時間だけ抜ける方が仕事への影響も少なくて済みます。
2. リモートワークを活用する
コロナ禍以降、リモートワークを導入している会社が増えました。これは不妊治療との両立にとって大きな追い風です。
在宅勤務なら通院前後の時間を調整しやすくなりますし、治療後に体調が優れないときも自宅で休みながら仕事ができます。通勤時間がなくなることで、体への負担も軽くなります。
完全リモートが難しい場合でも、週に数日だけでも在宅勤務ができないか相談してみるといいでしょう。「治療と両立したいので、働き方を変えられませんか」と正直に伝えることで、会社側も柔軟に対応してくれる可能性があります。
3. 上司や同僚に相談してみる
「治療のことを職場に言いたくない」という気持ちは分かります。実際、退職理由を「不妊治療のため」と伝えなかった人は約45%もいました。
ただ、誰にも相談せずに一人で抱え込んでしまうと、精神的な負担が大きくなってしまいます。信頼できる上司や同僚に打ち明けてみることで、思わぬサポートが得られることもあるのです。
- 急な休みに理解を示してもらえる
- 業務の調整をしてもらえる
- 精神的な支えになってもらえる
- 制度利用のアドバイスがもらえる
職場でのサポートがある人は、サポートがない人に比べて離職リスクが約半分になるというデータもあります。一人で悩まずに、周りの力を借りることも大切です。
退職後に後悔しないために考えておきたいこと
退職を決断する前に、冷静に考えておくべきことがあります。後から「やっぱり辞めなければよかった」と思わないためにも、しっかり準備しておきましょう。
1. 貯金と生活費のシミュレーションをする
退職前に必ずやっておきたいのが、お金の計算です。今ある貯金で何年間治療を続けられるのか、生活費はどのくらいかかるのかを具体的に数字で出してみましょう。
夫の収入だけで毎月の生活費をまかなえるのか、治療費は貯金から出せるのかを確認します。余裕があると思っていても、実際に計算してみると意外と厳しいことに気づくかもしれません。
ファイナンシャルプランナーに相談するのも一つの方法です。専門家の視点から、退職後の家計について客観的なアドバイスをもらえます。お金の不安が少しでも軽くなれば、治療にも前向きに取り組めるはずです。
2. 再就職やキャリアへの影響を考える
治療が終わった後のことも考えておく必要があります。もし妊娠できた場合、子育てが落ち着いてから働きたいと思うかもしれません。
残念ながら治療がうまくいかなかった場合でも、いつかは仕事に戻りたいと考える人が多いものです。そのときに、ブランクがあることで再就職が難しくなる可能性があります。
30代後半以降の転職は特に厳しくなりがちです。キャリアを一度手放すことの重さを、退職前にしっかり理解しておきましょう。退職ではなく、休職制度を使うという選択肢も検討してみてください。
3. 夫婦で話し合って決める
退職は、自分一人で決めるべきことではありません。夫婦でしっかり話し合って、お互いが納得したうえで決断することが大切です。
夫は「仕事を続けてほしい」と思っているかもしれませんし、逆に「無理せず辞めてもいいよ」と言ってくれるかもしれません。お互いの気持ちを確認しないまま退職してしまうと、後でギクシャクすることもあります。
- 治療にかける期間をどうするか
- 経済的な不安をどう解消するか
- 夫の仕事への影響はないか
- 将来の生活設計をどう考えるか
こうしたことを一つひとつ話し合っていくことで、二人で納得できる答えが見つかります。治療は夫婦二人の問題なので、決断も二人でするべきなのです。
退職を決めたときの伝え方と手続き
もし退職を決めたなら、円満に辞めるための準備も必要です。後腐れなく辞めることで、いざというときに復職の可能性も残せます。
1. 退職理由の伝え方のポイント
退職理由を「不妊治療のため」と正直に伝えるかどうかは、職場の雰囲気によって判断しましょう。理解のある職場なら正直に話すことで、今後の関係も良好に保てます。
一方で、プライバシーを守りたい場合は「家庭の事情」や「体調面の理由」といった表現でも問題ありません。実際、多くの人がこうした伝え方をしています。
- 感謝の気持ちを伝える
- 引き継ぎをしっかり行う
- 突然ではなく余裕を持って伝える
- できるだけ前向きな言葉で伝える
どんな理由を伝えるにしても、これまでお世話になった感謝と、きちんと引き継ぎを行う誠意を示すことが大切です。
2. 失業保険の手続きについて
退職後は失業保険の手続きを忘れずに行いましょう。自己都合退職の場合、3ヶ月の給付制限期間はありますが、その後は一定期間給付を受けられます。
ハローワークで求職の申し込みをすることで、失業保険の受給資格が得られます。すぐに仕事を探す予定がなくても、手続きをしておくことで経済的な支えになります。
ただし、失業保険を受給するには「就職する意思と能力がある」ことが条件です。治療に専念したい場合は、給付の対象外になる可能性もあるので注意しましょう。
3. 退職後の社会保険と年金の切り替え
退職すると、健康保険と年金の手続きが必要になります。健康保険は、夫の扶養に入るか、国民健康保険に加入するか、任意継続するかの3つから選べます。
夫の扶養に入る場合は、夫の会社に必要書類を提出します。国民健康保険に加入する場合は、退職後14日以内に市区町村の窓口で手続きをしましょう。
年金も厚生年金から国民年金に切り替わります。こちらも14日以内に市区町村の窓口で手続きが必要です。これらの手続きを怠ると、後で困ることになるので忘れずに行いましょう。
まとめ
不妊治療のために仕事を辞めるかどうかは、本当に難しい選択です。退職することで時間の自由が得られて治療に専念できる一方で、経済的な不安やキャリアへの影響も無視できません。
大切なのは、退職以外の選択肢も探してみることです。会社の制度を使ったり、働き方を変えたりすることで、両立できる道が見つかるかもしれません。もし退職を選ぶなら、お金のシミュレーションや将来の計画をしっかり立てて、夫婦で納得したうえで決断しましょう。どの道を選んでも、自分たちにとって最善だと思える選択ができることを願っています。
